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本庄の両親が交通事故で本庄と死別したのは、本庄が高校に上がる直前の三月だった。
高速道路を小型車で走っていた本庄の両親たちに大型トラックが追突してきた。しかもそのトラックの積荷が大量の古雑誌だったためガソリンに引火した火をさらに大きくする要因になり、その事故は当時ワイドショーを騒がせるものとなった。
もともと親類の少ない本庄が、本当の天涯孤独になったのは、この事故が原因だった。
 
「徳正義子」と女の子は名乗った。
 
「今時さ、『義子』って名前はないよね。「よし」って義経の「よし」ね」
「とくまさよしこ」
 
本庄は言われた名前を復唱する。
義子を助けた後、本庄はすぐに立ち去るつもりだったが、当の義子が「何か御礼をしたい」としつこく迫り、兄弟と言うには少し年が開きすぎ、親子と呼ぶには少し近すぎる、なんとも不釣合いなカップルで街を歩くことになった。
厄介なことになった、と本庄は自分の「反射」を恨んだ。
 
「俺のことを、正義の味方だと言ったな」
 
本庄は気になっていたことを言った。
 
「うん。本当にありがとう。あのときどうすればいいか分からなくてね。すごく怖かったんだ」
「とてもそうには見えなかったがな」
「怖いときほど大きな声が出ちゃうんだよね。私」
 
それはかなり困った性格だと思う、と本庄は答える。すると義子は笑った。
本庄は彼女の姿に、小柄な体からは想像できない大きな何かを感じた。それは、体の大きい自分には無いものだと思った。
 
「私は、いつも正義の味方でいたいと思ってるんだ」
「正義の味方で?」
「そう、正義の味方」
「さっきの男たちに絡まれていたのは何だったんだ?」
 
本庄は話題を変えた。正確には、彼女のこの性格がさっきの事件を引き起こしたのではないかと思ったのだ。
すると義子は、自分の誇らしい業績を語るかのように話し始めた。
 
「実はね、絡まれていたのは私じゃなくてもっと弱弱しい女の子だったんだ。私より小さかったから中学生ぐらいかな?」
 
あの若者たちはそんな小さな子にまで手を出すのか、節操が無いな、と本庄は時代を憂いた。
 
「だから間に入って言ったやったんだ「やめなさいよ!」って」
「それで今度はお前が絡まれることになったのか」
 
本庄にも容易に想像が付いた。
彼女のことだ、「やめなさい」どころではすまなかったのだろう。「こんな子襲って何が楽しいの?このロリコン!」ぐらいは言ったのではないだろうか。そして俺が出くわした場面につながるのか。このうるさい子といい俺と言い、あいつらは今日本当についてないな、と本庄は自分が関節を外した男達に同情した。
 
「本当最近ああいう節操ないやつが増えたよね。節操も節度も無いよ」
 
確かに、義子の言うとおりだった。
ここ十年で景気はさらに悪化し、失業者は増えた。若者はより未来に希望を持てなくなり曲がってしまい、地域によっては治安も悪くなった。本庄が暴力で稼ぐことが出来るのも、単にこのおかしな社会があってこそのものであった。
 
「こんな時代だからこそ、私やお兄さんみ
たいな正義の味方が必要なんだよ!」
 
義子はそういって本庄に手を差し伸べた。
本庄は手を差し伸べ返す。
 
「あ」
 
本庄の手を握る前に、義子は別の方向に視線を移し駆けて行った。
本庄も視線の先を見つめる。そこには、「仕事をください」と書いたダンボールを持った各所擦り切れたスーツを着たひげ面の男が地面に座っていた。
以前はテレビの発展途上国のリポートでしか見なかった「乞食」のようなものも、最近では見かけるようになった。皆、底辺まで落ちた社会で絶望しながらもがいている。年間自殺者は五万人を超えた。
本庄が見ていると、驚くことに義子はその乞食に札を二枚ほど渡して、手を握っていた。金を渡された乞食は、義子に土下座までして礼を言っていた。義子が両手を振って戻ってくる。
 
「あの人たちには、私たちよりもお金が要るから」
 
本庄は心底驚いていた。
ふと気付くと、ポケットに入れていた携帯電話が震えた。義子に断り電話に出る。
 
「本庄だ」
「ああ、すまない。私だよ」
 
『私』と名乗った男は、昨日仕事を依頼してきたやくざの頭だった。
 
「何だ」
「今夜、もういちど仕事を頼みたいのだがいいかな?」
「分かった。三十分後に掛けなおす」
 
本庄は無愛想に答えると電話を切った。
 
「無愛想だね」
 
義子が感想を述べる。
 
「すまない。もういかなくてはならない。」
「あーそうなんだ。寂しいね」
 
義子は言いながら脇を見る。そこにはクレープ屋があった。やはり不況の影響であまり売れていないようだった。
 
「おいしそうだね。食べてからにしない?」
「・・・ああ」
「私今お金ないんだよね。おごってくれる?」
 
金が無いのはお前が乞食に振舞ったからだろう?
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★ プロフィール
HN:
FUJIMI
性別:
非公開
自己紹介:
素人小説家。
今作が二作目。

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