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崎本は、ただ聞いていた。
 
「だからよ、分かるぅ?兄ちゃん」
「なんとなく」
「私はあいつは本当に自己中心的だと思うんだ。なんなんだ?勝手に病院なんかに連れて行きやがって、いい迷惑だよ」
「まぁ、それもお前を思ってのことだから」
「違うわ!アイツは自分のことしか考えてないんだよ!自分の犬が病気になったら周りからの見方が変わるから、それが嫌なだけなんだよっ」 
 
崎本の目の前にあるこじんまりとした犬小屋に座る、ビション・フリーゼは言った。
ふわふわした毛に包まれた小柄なその犬は、優しくかわいらしい印象を受けていたけど、話を聞いてみたら全然違うじゃないか、これはちょっとした詐欺だな、見た目詐欺、と崎本は早々に面倒くさくなっていた。

「アイツは見栄っ張りで意地っ張りだ!周りからの見られ方しか考えてねえじゃねえか!あぁ・・・もうこれもうっとうしい!」

ヒステリックに叫びながら、柄の悪い女にも、カマの入った男にも聞こえる話し方をするビション・フリーゼは首につけられたカラーを前足で叩いた。
そういえば、このカラーってのは拡声器にも見えるな。これをつけた犬が少し大きく見えるのは拡声器を持った政治家が薄い威厳を纏うのにも似てるのかもな、と崎本が考えている間も、犬はしゃべり続けた。

「なぁ兄ちゃん、なんで飼い主ってのはこう俺たちの気持ちも考えず勝手なことばかりするんだ?私はな、病気で死んでもいいんだ。そうだ、あんな飼い主に飼われ続けるぐらいなら死んだほうがいいさっ」
「死ぬなんて滅多なこというなよ。多分辛いぞ、死ぬのは」
「あぁ、うるさいうるさい!なんでそんな大きな声を出すんだ!」
「多分そのカラーのせいで大きく聞こえるだけだよ」
「これのせいかよ!本当に不愉快だ!ストレスで死んでしまいそうだ!!」
「よかったじゃん。希望が叶うな」

言いながら崎本は周りを気にする。どうやら周りに人はいないようだ。

「じゃあ、俺もう行くわ」
「どこ行くんだよ。もうちょっと居てよ」

崎本が立ち上がるとビション・フリーゼは崎本を見上げてきた。
昔、こういう構図で犬が見つめてくるってCM見たなぁ、でも俺はこいつを拾う気になんかならないね。
 
 
「そうそう、犬といえばさ、ウチの犬なんかは本当に人懐っこいもんでな、ウチに遊びに来た人には警戒もせずくっついちまうんだ。困ったもんだよ」 

白髪交じりの講師は嬉々として自分の飼い犬の自慢話を始めた。
おい、徳川幕府の話はどうした、と崎本は内心憤った。
まわりの生徒も、また始まった、と呆れるのが大半だ。
決して悪い講師ではないのだが、如何せん授業中すぐに脱線して自分の話をべらべらと延々話続けるのが生徒から大変悪い評価を受けているのが、崎本が授業を受けている歴史講師の欠点だった。それでいて「試験範囲が終わりそうにないから」と授業を延長するのだからたまったもんじゃない。
先生のところのミニチュア・プードルが人懐っこいという話はもう何度も聞かされてるよ、この次はどうせ犬嫌いの卒業生が遊びに来たときに飛びついちゃってその卒業生が大泣きした話だろ?
ノートの端を意味もなく赤いボールペンで塗りつぶしながら崎本は思った。
そういえば、あのビション・フリーゼも人懐っこい犬種じゃなかったっけ?やっぱ環境だな。育った環境が性格を決めるんだ。

「ふふ、面白いね。先生の話」
 
 不意に話しかけられ崎本は右を見る。そこには崎本と同窓の女子が居た。
人の顔と名前を覚えるのが苦手な崎本は、その綺麗な黒髪の彼女が「田部」という名前だということを思い出すのに数秒かかった。

「私先生の犬話大好きだなぁ。本当に犬が好きなんだね。あの先生」
「あれは犬話なんてもんじゃない、犬自慢」
「私も犬が大好きなんだ。ずっとマンション暮らしだから飼ったことはないんだけどね」
「あー俺は犬が嫌いだね。うん。大嫌い」
「可愛いじゃない」
「うるさいんだよ」
「しつければ吼えなくなるんじゃない?」

そこで崎本は、講師が再び徳川幕府の滅びる話に戻っていることに気付き、シャープペンを手に取った。

「人が犬を愛でるのは、犬がしゃべらないと思い込んでるからなんだ」
「犬はしゃべらないじゃない」
「しゃべるよ。そこらのおばちゃんぐらい」
「面白いね。崎本君」
 
 
「おー。探偵ー!」

帰り道、崎本はいわれの無い敬称で呼ばれ振り返った。

「何?探偵って」
「いやいや、お前よく困ってる人の手助けをするじゃん?」
「犬を探してやるだけだよ。それもお前に言われてほぼ強制的に」

なれなれしく話しかけてきた「川北」はそのまま歩きながら話し続けた。
高校時代から付き合いのある河北は、人付き合いの下手な崎本にとっては数少ない友人だった。

「実はな、お前に人探しを手伝ってもらいたいんだ。」
「人探しぃ?」
「ああ、俺の知り合いの知り合いなんだけどな、行方不明なんだと」
「警察に通報すべきだよ」
「したよ。とっくに。でも動いてくれないんだ。最低な連中だよな。俺が総理になったらあんな警察は解体してやる」
「お前総理になるの?」
「ならねえよ。でだ、お前はいなくなった犬を見つけるのが特技じゃん。その要領で人も見つけてくれよ」
「人と犬を一緒にするなよ。あと特技でもない」
「大きく見れば一緒だろ。」
恐らく人間と犬は「哺乳類」という点ぐらいでしか共通しないと崎本は思った。
「にしても、犬を探すのと人を探すのとでは話が違う」
「だってお前、人脈がすごいって話じゃん」
「人脈じゃない、犬脈だ」
 
犬と話すことの出来る大学生「崎本」はそう答えた。
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素人小説家。
今作が二作目。

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