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本庄には、忘れられない人物が二人いる。
本庄の父親は「強くあれ」と、本庄に様々な武道を習わせた。柔道、空手、合気道、ボクシング、ムエタイ、およそ本庄が知らない武道などは無い。
本庄は父に一度だけ自分が何故これほどまで武道をやらされるのかと問うと、本庄の父親は「踏み出す強さを持つためだ」と答えた。
本庄が廃病棟にたどり着くと、すでに騒がしい武力抗争は始まっていた。
町から離れた丘にある廃病棟か、ヤクザのケンカにはうってつけだな、と本庄は考えながら非常階段を上がっていった。
ヤクザの頭から入った仕事の内容は、敵対するヤクザの若頭が現れるこの抗争でその若頭の首をとってくれというものだった。そのために、本庄は若頭のいる部屋に忍び込み、護衛を倒し若頭を気絶させるのが本庄の今夜やるべき内容だ。
本庄は、人を殺すことにだけは抵抗があったため、護衛共々若頭を動けなくすればあとはヤクザの連中に任せると言うことにしていた。
本庄が「俺みたいな奴に抗争の手伝いをさせるなんて、恥だな」と毒づくと「こんなご時勢に恥も外聞も無いさ、あるのはいかに自分が生き残るか画策することだけだ」と頭はタバコで黒くなった歯を見せた。
計画通り、壁を伝って若頭がいる部屋の窓の外まで着いたところで、本庄はばれないように窓から中を覗いた。
護衛が二人、あとは誰も居ない。それに下で行われている抗争に注意が引かれ本庄が外からやってくるなどという想像は全く無いようだった。
いつも通りの念入りなイメージの組み立ての後、本庄は窓を蹴り割る。音で注意を引く、本庄の常套手段だった。まずは窓の破片が当たるほど近くにいた男の頭に回し蹴りをぶつける。蹴られた男はぼろくなった本棚に頭から突っ込んだ。本庄はすぐに若頭のとなりにいる男に照準を移しながら机の影に隠れる。
「奴らの手先かっ!」
「下がっていてください!」
などという会話とともに拳銃の安全装置を外す音が聞こえる。
恐らく昨日相手にした雑魚とは違うだろうと本庄は読んでいた。奇襲で倒せるのは一人までだ。
影に入った方とは逆の机の側面から飛び出した本庄は、手元の重たい本を護衛に投げつける。それを腕で弾いた護衛はすぐに本庄のいたところを撃つ。その後も二発、三発と撃つ。ばん、ばんと室内に乾いた銃声が響く。その全てをかわし本庄は護衛に近づく。銃を持った腕を掴むとすばやく両手を使い間接部分を勢いよく折る。昼間若者にやった「反射」とは似て非なる「攻撃」だ。
うめき声を上げた護衛の下腹を二発、全力で殴る。肋骨の保護が甘い肝臓の位置だ。そしてあごに膝蹴りを食らわし気絶させる。
「あ・・・あああ」
後ろで聞こえた情けない声に対し本庄は振り向きざまに裏拳をかます。若頭は床に転がり込んだ。
「ああ・・・こ・・・この卑怯ものが・・・!」
若頭が泣きそうな顔で殴られた頬を押さえながら本庄に毒づいた。
「さぁな、俺を雇ったヤクザは、あるのは画策だけだって言ってたな。恥も外聞もないんだと」
本庄は適当に答えながら近づく。後は腹を蹴りつけてお終いだ、簡単な仕事だったな、と本庄は思う。
「俺たちは・・・正義なんだ!!悪はお前らだ」
若頭の震える口から放たれた言葉が、本庄の足を止めた。
「いいか?俺たちはこの街をもっと発展させる!他の連中になめられないようにするんだ!俺たちにしか出来
ない!お前らには無理だ!」
本庄は聞きながら、唐突に昼間、義子が言った言葉が頭に蘇った。
「私は、いつも正義の味方でいたいと思うんだ」
正義って何だ?
本庄の止まった思考を再び動かしたのは後ろで聞こえた銃を抜く音だった。振り向くと、始めに倒したはずの男が四つんばいのまま拳銃を向けていた。
本庄はとっさに身体を右に傾ける。銃声が響く。すぐに本庄は倒れた男に走り近づき、拳銃を右手ごと蹴り飛ばした。そしてその後、右腕に走る熱い痛みを感じた。
右腕に当たった銃弾は幸い貫通していたので、素早く止血、圧迫を行い、本庄は家に帰った。
仕事の最中に他のことを考えるなど、今まで本庄がしたこともないミスだった。
腕を押さえながら帰路につく中、本庄は昼間に見た義子の背中を思い出していた。
正義って・・・
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