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本庄の中学の女性担任は、几帳面ながら竹を割ったような性格で生徒からも好かれていた。そんな彼女がある事情で学校を去ることになった日、彼女は本庄たち生徒に言った。

「君たちは、絶対クズなんかじゃないから」

今じゃその女性担任がどのような意図を持って本庄たちにそういったかは覚えていないが、本庄の胸にはその言葉がまだ残っている。

 

「正義はあんた達を許さないよ!」

また義子の声が聞こえた気がした。というか聞こえた。
いつもどおり銀行に入金を確認した後、銀行と目と鼻の先にある小さなアパートの前に、義子はいた。

「弱い女性を集団で襲おうなんて、あんたたちどうかしてるんじゃないの?」

アパートの上階に向かって叫びたてている義子の声は、周辺の人間を集めるには充分過ぎであり、アパートの周りにはちょっとした人だかりが出来ていた。

「うるっせえな!!てめえには関係ねえだろ!!」
「関係あるかなんて関係ないもん!!」

本庄は通り過ぎようとも思った。だが、それを踏みとどまらせたのは、昨日の仕事以降本庄の中に芽生えた新たな感情だった。

 
集まっている人の話し声を盗み聞きしてみると、事件の全貌を理解するのはさして難しくは無かった。
どうやら、アパートにたてこもって義子と口論を行っている男は、最近問題を起こして高校を退学にされ、腹いせに仲間を集め女性を襲おうとしたところ、そうそう上手くもいかず、女性に大声を出されて周辺の住民に気付かれてしまい、動転した男たちは、持っていたナイフを片手に女性を人質に取りアパートにたてこもることを始めたらしい。
 白昼からこんな事件が起きるなんて、世の中はどこまで落ちていったんだ、と本庄は微妙に感心しながら周りの野次馬同様、アパートの三階を見つめていた。
 
「どうせこの国はもう終わってんだよ!最低最悪だ!俺たちの人生もな!!だったら最後に少しぐらい良い思いしたっていいだろ!!」
「たとえこの国がどれだけ最低最悪でも、逃げ出して女性を襲おうなんて考えるあんた達は、超最低超最悪だよ!」

本庄が聞いていると、義子はさらに男を逆上させるような言葉を乱発した。
男は義子の言葉を聞くたびに、ナイフを握る手の力をより強くし、震えていた。
首もとにナイフを押し付けられている女性はもっと震えている。

「ちょっと待ってなさいよ!今そっちに殴りに行ってやる!!」
「うるせえ!くんじゃねえ!!」

本庄の体はその瞬間動いた、男が酒のビンを投げつけるのを見たからだ。
とっさに義子の真後ろまで急接近し肩を掴み一メートルほど後ろへ下がる。ビンはちょうど義子のいた場所に落ち、割れる。その音に反応しまわりの野次馬が全員一歩後退する。人の波が生まれた。

「あ、お兄さん!また会えたね。あれ?その腕どうしたの?」

本庄の顔を見ると義子は一瞬顔をほころばせた、その後すごい速さで事件の成り行きを説明し出した、本庄が
野次馬の話を盗み聞きして聞いたものとそのまま同じだった。

「お前があんまり煽るから、見ろ、奴らカーテン閉めて引っ込んでしまったぞ」
「あぁ、卑怯な奴らだ!」
「もう離れろ、ここにいても出来ることはない」

本庄は義子の肩に手を差し伸べながら言った。
ここで首を突っ込んでもいいことなんてない。と本庄は経験から考えていた。

「いやだよ!」

本庄の差し伸べた右手を義子が払う。払われた右腕の傷がちくりと痛む。
本庄が困惑していると、義子が叫び出した。

「今、そこで、悪が好き勝手なことをやってるんだよ?どうして私たちが黙らなきゃいけないの!正義の味方だったら、戦わなきゃいけないんだよ!」

それは、年頃の娘が言うにはあまりにも陳腐で、子供のような言葉だった。周りの人間の中には驚き、笑っているものもいる。

「じゃあ警察を待てばいい」
「そんなことしてるうちに取り返しの付かないことになるかもしれないじゃん!」

本庄の弱弱しい反論など全く通じず、義子は大きく息を吸い込み続けた。

「今できることをやらなくて、正義の味方になんかなれるわけないよ!」

 
その言葉は、本庄の何かを動かした。
瞳孔が大きく開き、雷が落ちて、目が醒めるような感覚が本庄に流れ込んできた。
本庄の頭の中にある、いろんな人間の言葉が、渦巻くように頭の中を反芻する。本庄の父親、中学の担任、昨日のヤクザの若頭、義子の言葉がだ。
その渦の中心には、本庄が追い求めた、義子の大きな目の中に見えるものが、あった。

 
本庄は、アパートを見つめた。恐らく中には男たち以外誰もいないだろう。だが、裏通りに回れば、非常口があるはずだ、と本庄は考察を始める。

「ねえ、そうでしょ?お兄さん!」

義子が叫ぶ。

「ああ、そうだな」

本庄は、二十五年生きてきて、やっと掴んだものの感触を確かめるように、言葉を紡いでいく。
俺は逃げていたんだ・・・自分のやるべきこと、出来ることから。

「正義の味方の条件は、二の足を踏まないことだよな」
「うん・・・自分に出来ることに躊躇しないことだよ」

義子が本庄の言葉に間髪いれずに答える。
本庄はその場を離れた。
 
 
 本庄の予想通り、アパートの裏側には非常口があり、そこには人だかりが出来ていないのもあってラクに進入することが出来た。
少し迷った後、本庄は件の部屋の前にまでたどり着いた。おまけに扉がほんの少し開いていた。
 いくらなんでもうかつすぎるだろう、と本庄は昨日自分が行った仕事と比べて非常に簡単だと思った。
覗いていると、女性が例の男にナイフをつきつけられ部屋の隅で震えていた。周りをとりかこむ三人の男は仲間だろうか。

「助けに来たぜ・・・子猫ちゃん」

本庄は中の男たちに聞こえないようにつぶやく。もう胸の中に暗雲とたちこめる気持ち悪い感覚はなくなっていた。逆に、すがすがしい風が流れ込むような高揚感があった。
本庄は父に感謝した。「踏み出す強さはもらったよ」
本庄は中学の担任に感謝した。「俺はクズじゃなかったですよ」
本庄はいつもの通り、イメージする。扉を足で開いたら、まずはリーダーのナイフ男を腕ごと蹴り飛ばす。近くにいる三人の男は屈強な順から拳を入れていく。恐らく、昨日のような凶器を持っている奴らはいないだろう。
そのイメージを反芻させた後、本庄は扉を勢いよく蹴りつけた。
そして確信する。
 

今度こそ、正義の味方だ。
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素人小説家。
今作が二作目。

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