忍者ブログ
<< 04  2025/05  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31    06 >>
[3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12]  [13
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 「モンスタークラッシャー」と本庄が呼ばれるようになったのは、本庄が今の「仕事」を始めるようになってまもなくだ。その言葉のさす意味が「モンスターのようにクラッシュする」のか「モンスターさえもクラッシュする」のか、今では知る由もないが、本庄が穏やかでない世界でこの通り名と共に非常に有名を誇ると同時に畏怖される存在になりあがったのはまちがいない。

 

本庄は未だに昨晩の胸苦しさに苛まれていた。
なんなんだ、今の俺は。本庄の脳裏を回るのはその問答だった。

「助けに来たぜ・・・子猫ちゃん」

本庄はふと空に向かって言葉を吐き出した。それは、本庄が数少なく覚えている彼の幼少期の思い出であった。
本庄が小さい頃にテレビでよく見ていた低年齢層向けのいわゆる「ヒーローアニメ」と言われるテレビ番組だったが、主人公は、きざな台詞をところかまわず吐き散らし、悪役の巣窟に突撃しては捕まっている美少女に「助けに来たぜ・・・子猫ちゃん」という決め台詞を必ず言うことだけを覚えている。
あの番組で、いつも悪役に捕まっていたのは、かわいらしい美少女だったな、と本庄は昨晩助けた物騒な男のことを思い出す。

「あれは・・・子猫ちゃんって感じじゃあないな」
 
俺は今、あの時見た正義の味方になっているのか?いや、なれているわけがない。
俺が暴力を振るっても、誰もハッピーエンドにはならない。あるのは、汚い奴らの利益と面子だけだ。俺はあの正義の味方にはなれていない。
本庄はいつも「仕事」が終わると、理想と現実、自己主張と他力本願、善と悪の狭間で苦しんでいた。
では何故本庄はこんな「仕事」をするのか。
 どんなモンスターでも、金がないと食うことも出来ないからだ。
つまるところ俺は、他の奴らのようにはなれないってことだ・・。

 
「きゃっ!」

本庄を自分の世界から引きずり出したのは、若い女性の叫び声だった。
 本庄が声のした方を振り向くと、狭い路地で背の小さな女の子が、中背の若い男二人に囲まれていた。

「やめてよ!あんたたちこんなことしていいと思ってるの!?」

 女の子は屈強な若者に囲まれているにも関わらず強気だった。
本庄はとっさに周りを見回す。小さな通りとはいえ、決して人通りは少なくないこの道路で、誰一人として彼女の方を見ないということは・・・つまりそういうことなのだろう。本庄は理解していた。

「正義はあんたたちを許さないよ!」

そんななか唯一その女の子を見つめていた本庄が彼女と目が合うのにさほどの時間はかからなかった。
その視線に若者たちが気付いたらしく片方が本庄に近づいてきた。

「おい何だよオッサン」
「オッサン?」

それまで「モンスター」やら「人殺し」などの呼ばれこそしたが「オッサン」と呼ばれたのは初めてで、本庄は新鮮な気持ちになった。オッサンとは、俺のような男にも当てはまる言葉だったんだな。

「俺はまだ二十五なんだが」
「うるっせえよ!消えろ!」

その瞬間、本庄の体は動いた。
本庄の胸倉を掴もうとした若者の右手首を握り、捻る。

「あぐぅあ!」

そのまま本庄は本来腕が曲がらない方向に若者の腕を曲げ、極めて滑らかに関節を外した。

「あっぎゃぁぁぁ!!!」

腕の痛さに耐えかねて、若者が地をはいずりながら呻く。

「お・・・おい!」

その状況を見て、女の子の隣にいた若者が呻く若者に駆け寄る。

「死にはしないが、早く病院に連れて行ってやれ、間接をはめなおせば痛みも治まる」

本庄がそう告げると、若者は「おい、行くぞ」と言いながらもう片方を抱えて早歩きで去っていった。

「あ・・・ありがとうございます!」

路地から出てきた女の子が本庄に礼を言ってきた。

「ただの反射だ」

本庄はすげなく対処した。
 本庄は実際彼女を助けようと言う気持ちよりも、暴力を振る生業としての悲しい反射で、自分に危害を及ぼそうとした若者の腕を捻っただけだった。本来なら倒れる隙も与えず、腹を殴り気絶させていただろうが、そんなことすれば警察に捕まるのは本庄の方だ。それだけはごめんだった。

「あなたは・・・正義の味方ですね!」
彼女は笑いながら本庄を見上げていった。
本庄はひどく困惑した。

「俺が・・・?馬鹿な」
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (管理人しか読むことができません)
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
★ プロフィール
HN:
FUJIMI
性別:
非公開
自己紹介:
素人小説家。
今作が二作目。

温かく見守っていてください。
★ 最新話
(03/10)
(06/18)
★ カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
★ 最新CM
[07/19 ゆ→き]
[04/17 silver]

Copyright (c)fool men around the world All Rights Reserved.
Photo material by 空色地図  Template by tsukika

忍者ブログ [PR]